中村明珍 ⇔ 黒木淳史 往復書簡

明珍さんへ 2024年3月from 黒木淳史

珍くん、お便りをありがとう。
お返事を書こう書こうと思っているうちに、あっという間に3月になってしまいました。
今年のお正月は、能登半島の地震など不安な出来事がたくさんありましたね。
お坊さん目線の初詣はなかなか想像がつきませんが、そんなにエネルギーに満ち溢れているんですね。

我が家のいつものお正月は、珍くんに結婚式をあげてもらった思い出の地「文珠山」から初日の出を拝むところから始まります。その後は家族そろって、実家のある岩国市の椎尾八幡宮へ初詣です。

今年は妻の実家の大阪でお正月を迎えました。奈良の東大寺へも行き、大仏様のお顔を拝見してきました。
普段は外からお顔を拝むことはできませんが、大晦日~元日朝にかけての初詣のときには大仏殿の窓が開くんです。大仏殿の窓から大仏様のお顔が覗くんです!

僕は、神社にしろお寺にしろ、建物にばかり目がいってしまいます。常に大工目線です。
10年程前に初めて東大寺に行ったときは、門内に金剛力士(仁王)像が安置された南大門に圧倒され、気づいたら何時間も見上げていて、大仏様を拝む時間がなくなってしまいました。
今年はちゃんとお顔を拝めました。

「間」とか「柱」とか、珍くんが書いていたようなことは、いつも気になります。
建築における尺貫法は「間」を表す基準で、「間」は、まさに「柱」と「柱」の間(あいだ)の距離です。
「柱」と「間」のどちらを強く意識するかというと、木造大工の場合は「間」のほうだと思います。

なぜかというと、柱の太さは5寸だったり3寸だったり様々ですが、柱と柱の内寸(あいだの寸法)が6尺と決まっているからです。だから、使う柱の太さによって、柱の芯から柱の芯までの距離は変わってくる。使う柱によって同じ6畳間でも大きい6畳間(大きな柱の和室)と小さい6畳間(小さな柱の和室)があるのです。

基準は「間」なわけです。「間」が決まっているということは、畳の大きさや建具の大きさも決まっているということです。
大先輩の大工さんに聞いてみたところ、昔は、同じ建物ならどの和室でも畳屋さんは同じサイズの畳を作ればよいのが当たり前で、部屋ごとに畳のサイズがまちまちで畳屋さんが難儀している現場では、大工は小ばかにされたそうです。

ちなみに、尺貫法で1尺は1/3.3m、3尺は909mmまたは910mmで表されます。
わずか1mmの差ではありますが、これが牛舎などの長い建物になると、120尺だとして36,360mmと36,400mmですから、40mmの違いが出てしまいます。

ただ、木造大工には909mmだろうが910mmだろうが関係なくて、「尺棒」という長い定規に従います。
この尺棒は、毎年お正月明けに作ります。
長さは工務店ごとに異なりますが、たいてい13尺2寸くらいです。その工務店がその年につくる家の長さの定規となります。

昔ながらの日本の建物は、襖や畳の大きさは3尺×6尺、鴨居の高さは6尺、天井の高さは8尺、と基準が決まっていました。
日本人には、尺貫法の「間」の感覚が知らず知らずのうちに身についているように感じます。
西洋とは違う日本独特の感覚だと思います。
お笑いにおける「間」なんかも、これに近いでしょうか。自然と身についている心地よさがあるんでしょうね。

近年は日本人でも背の高い人が多くなって、鴨居の高さは2mが一般的になりました。
「間」に対する感覚も少しずつ変化してきているのかもしれません。
畳の和室のない家も増えてきたので、「四畳半フォーク」なんかも、今の人には感覚的にわかりにくいかも。

珍くん、こんなお返事でいかがでしょうか?
また気になることがあったら聞いてみてください。

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